レコードのススメ

第1章:レコード講座
  第5節 モノラルがいい、ステレオがいい?

モノラルがいい、ステレオがいい? オーディオ、レコードには数々の迷信があるのはご承知だろうが「モノラルとステレオを比較するとモノラルの方がいい」もその迷信の一つである。
同じレコードを比較する場合、あくまでも同一条件のものでないと比較にはならない。比較する前の予備知識として、次のことを頭に入れておいて欲しい。

1. レコードを制作する過程で、マスターテープ及びマスターラッカー、マザーラッカーなどを使っているが、それぞれ経年劣化があり、マスターテープはゆるやかに、マスターラッカー、マザーラッカーは短期間で劣化する。このため、同じオリジナル盤でも、スタンパーナンバーの若いものほど音が良い。
2. ステレオ盤が登場した1950年代後半から1960年代後半まで、ステレオとモノラルは両方発売されている。
3. ステレオ盤が登場した1950年代後半には、先にモノラルを発売し、後で(1~2年後)にステレオを発売しているケースがある。
4. 国内盤を制作する場合、マスターテープを使用しているケースは殆どなく、予備のテープなどを使っている。国内初版といっても、オリジナル盤の制作時期と同じではない。

例えば、リー・モーガン/サイドワインダーを比較する際、国内盤はステレオしか出ていないがオリジナルにはステレオとモノラルが出ている。国内盤のなかで音がいいとされるキング盤とオリジナル・ステレオ盤を比較すると、音色、音離れ、音場感、躍動感そのほか全ての面でオリジナル盤が優れている。キング盤は音が痩せている。
では、同じオリジナル盤のステレオとモノラル(同時期発売)を比較すると、楽器の位置はもちろんステレオのほうがはっきり分かるが、音圧、躍動感などは圧倒的にモノラルに軍配が上がる。

次に、マイルス・デイヴィス/スケッチ・オブ・スペインを比較してみる。国内盤との差はどれを聴いても同じなのでここでは省くが、条件を同じにするため、どちらも1A/1A(最初のスタンパー)を使用する。モノラル盤の音圧、ナチュラルな音色、躍動感は素晴らしいものがある。ステレオ盤では、音圧はモノラルよりは少し落ちる(気にならない程度)ものの、その他の要素、音場感、臨場感、もちろん音色そのほか全ての要素が素晴らしく、マイルスがそこで演奏しているのが手に取るように分かる。

いろんなオリジナル盤を比較していくと次のようなことが分かってくる。

1. 1950年代後半の、モノラルが先に出てステレオが後からでたものはモノラル。
2. アトランティックやリバーサイドに見られる、音が左右に分かれセンターにないものはモノラル。
3. プレスティッジやブルーノートのヴァン・ゲルダー録音はモノラル。
4. ビクター・リビングステレオはステレオ。
5. コロンビア、キャピトルはステレオ。
6. TAS Super Discは全てステレオ。
おおざっぱではあるがケースによって「モノラルがいい、ステレオがいい」がある。また、製作時期、レーベル、録音技術者などの条件によって「モノラルがいい、ステレオがいい」は分かれてくる。

また、聴いている装置の問題にも大きく左右される。セッティングがうまくいっていなくてステレオイメージが出ていない装置で聴いた場合はモノラルがいい音に聴こえるし、モノラル・カートリッジを使用するとモノラルがいい音になる。逆にステレオイメージがよく出るように(うまい具合に)セッティングされたシステムであれば、ステレオのほうがいいというレコードは多い。聴いている方の感性(どこを聴いているか)によっても「モノラルがいい、ステレオがいい」は分かれてくる。

時代背景を考えると、1960年代前半までは家庭にステレオシステムの普及が進んでいなかったのでモノラルとステレオの両方を発売していたが、普及が進んだ1960年代後半には、モノラルは姿を消していくのである。モノラルのほうが音がいいのであれば、その後も継続して制作されたはずではないだろうか。
「モノラルがいい、ステレオがいい」はレコード毎に違うのである。


左:Sidewinder/Momaural 右:Sketches of Spain/Stereo